これはきっと、恋じゃない。


『いまアツい! セレピの王子様大解剖スペシャル!』

「うっわぁ……」

 思わず声が漏れた。
 ページいっぱいに、王子くんがいたから。

 ドアップなのに肌にニキビひとつない。真珠のような肌で、つるんとしている。

『遥灯くんに10の質問!』

 ミモザの花束を抱えた王子くんが何カットも載っている。ミモザの黄色がアースカラーの衣装によく似合っていて、また胸がぎゅっとした。

『1.名前は?
――王子遥灯です!』

『2.名前の由来は?
――春生まれだから! 春陽になりそうだったけど、女の子ぽいから遥灯に。あと名字負けしないようにって』

 ……へぇ、そうなんだ。知らなかった。

『3.誕生日は?
――3月28日。生まれたときには桜が満開だったみたい』

『5.最近のマイブーム!
――カヌレ! こたくんが買ってくれたのがすごい美味しくて、それからハマってます!』

 カヌレが好きなんて、甘いものが好きなのかな。
 かわいいなぁ。

『9.好きなタイプは?
――うーん、面倒見がいい子! テスト範囲とかわからないところを教えてくれる子とかがいいな』

 ――ん?
 え、見間違い?

 そう思ってもう一度読むけれど、内容は間違っていない。心臓がドキドキしてきた。
 
 ……いやいや、ちがうって!

 自惚れるな。好きなタイプなだけで、わたしじゃない。
 ……ああ! わたしってこんなこと考えるようなひとだったの!?

『面倒見がいいところだと思う』

 なぜか、王子くんが言った言葉がよみがえる。
 ち、ちがうから。わたしのことじゃない。そもそも、ミモザが旬な時期は春だもん。あれを言ってくれたのは、ついこの間。

 ……そう、ちがうのよ。

『10.行ってみたい国は?
――キルギス! 学校の授業で調べて以来気になってる!』

「ひゃ……」
「なになに、どしたの?」

 亜子ちゃんが覗き込んでくる。
 わたしは雑誌をテーブルに置いて、胸に手を当てて深呼吸する。

 ……嬉しい。
 自惚れとか自意識過剰かもしれないけれど、わたしとやったことが王子くんの中にあるのが嬉しい。

「よかったね、千世」
「――はっ! ち、ちがうから!」
「またまたぁ」

 亜子ちゃんは笑いながら、スマホをいじっている。
 それを横目に、わたしはまた雑誌を読み始める。

 インタビューの内容は、さっきの一問一答をより詳しく掘り下げるような内容だった。

『なんでキルギスを選んだの?
――地図帳を開いたとき、パッと出てきたのがキルギスだったんです』

 まるで王子くんがやったみたいな書き方になってる。
 ……まぁ、それもそうだよね。
 ペアの子、なんて書いてファンの子が変に勘繰るのも良くないし。

 それでも少し、寂しかった

 ――そのときだった。

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