これはきっと、恋じゃない。


「……逢沢さんとは、ペアワークとかがあって仲良くなったんだ。この日は、午後から学校行ったときで、いつものとこに行ったら先に逢沢さんがいて、話した、だけ……」

 あんなに背中は小さかったっけ。
 見えない期待を背負う姿が同じだと思った。無意識に周りが望むような人になろうとして、なれない葛藤や不安を抱えているのも同じだった。

 似ていると思った。

 逢沢さんのあの朗らかな笑顔に、俺は幾度となく救われてきたこともあった。
 俺のことをよく考えてくれていて、見ていてくれて、たくさん助けてくれたこともあった。

 だから、俺も逢沢さんを助けたかった。
 元気づけたかった。

「……ほんとに?」

 優しい声で、一佳が尋ねる。

「ほ……」

 ほんとに、という言葉が喉に詰まって出てこない。

 何もない。ただのクラスメイト。
 それを否定したくないとでも思っているみたいに。

「信じてもいいの?」

 ……そんなの、うなずくしか、ないじゃないか。

「――じゃあなんで、ハルちゃんはそんなに泣きそうな顔をしているの?」

 そう言われた瞬間、胸の中で、なにかが弾けた。

 湧き上がってくる感情がよくわからない。スタジオの鏡を見て、そこでやっと自分がどんな表情なのかわかった。
 ……なんて顔してんだ、俺。

「泣きそうに、見える?」
「見えるよ」

 一佳のそんな優しい声を聞いたのは久しぶりだった。
 あの日、あの春の日以来かもしれない。

「好きだったの?」
「一佳く――」
「智成くんは黙ってて。……ハルちゃんは、逢沢さんのことが好きなんだよね」

 鼻の奥がツンとした。でも絶対泣くもんかと思う。

 ――好きなんだ。

 驚くほど、一佳の言葉が腑に落ちた。
 ……そうか。俺は逢沢さんのことが、好きだったんだ。

 偶然ぶつかった。
 資料を運ぶのを手伝ってあげた。

 時々見せる、見透かしたような表情。ペアワークもテストも、いろんなことを教えてくれてやってくれる。

 夢を語る俺を、少し羨ましそうに見る。
 最初から完璧で、真面目で、優等生で先生からの信頼も厚い人。

 でも、本当はそんなことはなくて。
 ただ必死に期待に応えようとしてるだけで、なりたい理想を描くけれど、うまくいくかどうか不安なだけで。

 そうか。俺はぜんぶ、好きだったんだ。
 好きだったから、よく見てたんだ。

 ……そうか。
 ――だけど。
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