これはきっと、恋じゃない。

 俺には、その先はない。
 好きだった。たしかにそうだ。

 でも、この気持ちはそれで終わりだ。

「ハル」

 そっと肩を抱かれた。
 一佳くんの肩とぶつかって、首に力が入らなくて項垂れる。

 ――これは、要らない。

 セレピとして活動していく者として。
 グループの中で最年少で、センターを務める者として。
 デビューを目指す者として、アイドルとして。

 そして、旭羽とした約束を守るためには。

 この気持ちは、必要ない。
 これは恋じゃないと、言い聞かせるしかない。

 ふつうの幸せを夢見るなんて傲慢だ。そんな”普通”はもう捨てる。
 この仕事を始めた時点で、あの日劇団で舞台に立ったその瞬間に、普通の幸せは捨てたんだ。

「……みんな、ごめん」

 ごめんなさい、迷惑かけて。
 俺のせいで、みんなに必要のない傷をつけた。

 遥灯は、覚悟を決めてゆっくりと顔を上げる。

「もう大丈夫」

 心の奥底に、この気持ちはしまっておく。開かない、思い出さない。
 見て見ぬふりをしよう。

 そして言い聞かせよう。
 これはきっと、恋じゃないのだと。

 ――俺はアイドルだ。
 普通の幸せなんて手に入れられないし、必要ない。

 一佳から離れ、ダンスシューズの靴紐を結び直して立ち上がる。

 鏡の前に立ち、大きく息を吸う。
 すべて呑み込んで、ただ夢のためだけに歌う。踊る。

 旭羽のために。
 自分のために。
 智成くん、晶くん、こたくん、一佳くん。……メンバーのために。

 そして、何よりもファンのために。
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