これはきっと、恋じゃない。
梨花ちゃんがいなくなって、わたしだけになった保健室で、はぁ、と大きく息をつく。
……そうか、映画か。
相変わらず、王子くんてばすごいな。
椅子の背に身をあずけて窓の外を見る。そういえば、出逢ったときも、こんな時期だった。色鮮やかな春の日。偶然ぶつかって、そこから始まった。
あの写真が出回って以来、わたしたちはほとんど話さなくなった。用事とあいさつ以外、周りから怪しまれない程度に少しずつ距離を離していった。
だからもう卒業するころには、みんなはわたしたちが写真を撮られたことを忘れかけていたし、今では友達の中では笑い話に近い。
そういえば卒業式の日には、セレピの4人が集まってちょっとした騒ぎになったんだっけ。
「懐かしいな……」
もう、6年も前か。
時間が経つのは、思っているよりも早い。
高校生だった時間が、それほど前だったなんて今でも信じられなくなる。
大学1年生のころ、一度だけ王子くんが出ている映画に誘われたことがあって行ったけれど、なんだかまともに見れなかった。それ以来、出演作品は全然見ていない。
わたしが王子くんが出ているものを見なくなったことを、亜子ちゃんもお姉ちゃんも知っていた。でも3年前、練習生としては異例だった全国ツアーのラスト公演、2人に誘われて仕方なく見に行った公演の終盤で、突然デビューが発表された。
あのときのことは、まるで昨日のことのようによく覚えている。
会場が揺れるほど大きな歓声があがり、本人たちも知らされなかったようで、ステージで4人が泣き崩れてしまうなか、ただ1人、王子くんだけは一滴の涙も流さなかった。
彼はただ静かに、空に向かって拳を突き立てていた。
その姿が、よみがえる。
いま思い出しただけでも、鳥肌が立つ。
「……すごいよ、ほんと」
わたしも一応、夢を叶えた。
それでも、足元にも及ばない。
王子くんは長い間じっと耐え続けて、デビューできるその日を夢見て、努力を続けてきた。それが、実を結んだ。