これはきっと、恋じゃない。
その日の夜、ずっと見ることができていなかった出演作品を、やっと見ることができた。
最近のドラマを配信で見る。テレビのなかにいる王子くんは、高校生のころよりも、デビューが発表されたあのときよりもぐんと大人っぽくて、でも笑った顔は全然変わっていなかった。
お酒をちびちびと飲みながら、思い立ってドキュメンタリーを見ることにした。デビュー前後に密着したものが、サブスクで配信されていることを亜子ちゃんから聞いていた。
なぜだか心臓がドキドキとしてきた。
幾度となく見るのをやめようかなと思った。これを見ると、あの時の想いがまた溢れてきそうだから。
それでも、お酒の力で判断力が鈍っていたわたしは、気がついたら再生をボタンを押していた。
『意外と薄情っていうか、冷たい人なんだねって言われましたね』
始まるなり苦笑しながら、まだあどけない表情の王子くんは言う。
『でも違うんですよ。なんかほんとに、涙が出てこなかったんです。安心したし、やっとかぁって思いました』
発表時の映像が流れ始める。わたしははじめて、王子くんが泣かなかった理由を知る。
『でも、王子くんはコンサートが終わったあと、ただひとりである写真立てを持って、ステージに向かいました』
ステージのセットが映る。……そうだ、こんなセットだった。とてもきらきらしていて、たくさんのペンライトの光と照明を浴びてステージで歌って踊る王子くんはすごく輝いていた。
そんなステージも、コンサートが終わると真っ暗だった。王子くんは、ついさっきまで煌びやかに輝いていたはずのステージの真ん中に立つと、しばらく目を眇めて客席を見つめたあと、座り込んだ。
そして、写真立てを隣に置いた。
『その写真立ては、4年前に亡くなった兄、王子旭羽くんです』
それから間もなくして、しゃくりあげるよう声が聴こえてきた。そこをカメラは引いて写す。広くて、ついさっきまで笑顔であふれていた場所には似つかない、切ない嗚咽だった。
その涙の理由は、嬉しさなのか安堵なのか、はたまたそれ以外のものなのかはわからない。今まで感じてきたプレッシャーからの解放かもしれない。