これはきっと、恋じゃない。
鼻の奥がツンとしてきた。顔に熱が集まって、暑い。それでもこのまま、わたしが泣いてはいけない気がした。下唇を噛み締めて、じっと耐える。
少しして、辰巳くんと遠山くんがやって来た。
王子くんとお兄さんを囲うようにして座ると、遠山くんは王子くんの肩を抱いた。そして3人は再び涙を流し、肩を揺らしながらずっと一緒にいた。
耐えきれなくなって、目尻から熱い涙が落ちた。デビューして、今では大人気のアイドルになったことを知っているのに、胸が震えてしかたがなかった。
……よかった。デビューできて、本当によかった。
あのとき、努力は必ずしも報われるものじゃないと苦しそうな表情で言っていた王子くん。
なんのためにやってるのかわからないと言っていた王子くん。
初めて会ったとき、無理して笑っていた王子くん。
友達と騒がずに、お昼になったらすぐにウッドデッキに行って一人でダンスや歌の練習をしていた王子くん。
わたしが不安でしかたがなかったとき、優しく励ましてくれた王子くん。
あふれ出してしまった気持ちは、もう収まらなかった。
同時に、やっぱり記憶と一緒にあのとき抱いた気持ちがよみがえってきた。
ティッシュで涙を拭いて、スマホを開く。メッセージアプリのずっと下を遡ってみれば、そこにはまだ王子くんとのトークルームがある。
……幾度となく消そうとした。5年も昔のトークルームを残してるなんて、さすがに気持ち悪いなと思う。でも消せなかった。
テレビからはエンディングが流れている。それは、5人が新しいステージに向かう後ろ姿。
胸の奥が、ずきんと痛む。嬉しいのに、不思議な気分。この先の未来を知っているのに。
遠くなってしまった。
あのときみたいに、気軽に会えない。
もう遥か遠くで、会いたいと焦がれたってコンサートに来る大勢のファンのうちの1人にしかなれない。
忘れかけていた記憶と一緒に、よみがえって膨れ上がる。
「……好き」
どうしようもできない、好きの気持ち。