これはきっと、恋じゃない。


 お昼ごはんも食べ終えて、準備の時間まで亜子ちゃんとだらだらと雑談していたときだった。

「……お、ラッキー」
 佐藤先生が教室に入ってきたと思うと、わたしの方を見てそう言った。。

「逢沢ー」
「え、なんですか」

 にこにこ笑いながら近づいてくる先生に対して、嫌な予感がかけめぐった。

「用事、頼まれてくれない?」

 や、やっぱり!

「生徒会室にある資料をさ、先生の部屋まで持ってきて欲しいんだよ」
「ええ……」
「遅刻した罰として頼むよ、な!」

 ……遅刻した罰って、なによそれ。でも、それは事実なので何も言い返すことはできなかった。遅刻したのは100%、わたしが悪い。

「……わかりました」
「悪いな。これ鍵」

 そう言って、先生は足取り軽く教室を出て行った。絶対頼む気マンマンだった。

「はぁ……」
「さすが副会長、なんだかんだ言って引き受けるのね」
「そりゃ遅刻は事実すぎて何も言えなくて」
「えらいえらい。……じゃあ、私そろそろ行こうかな」

 亜子ちゃんは美術部に入っているから、この後も部活があるらしい。今度イラストコンクールに出す作品を制作中だと言っていた。

「うん。また明後日かな」
「や、一応明日チラシ配るのに来るよ」
「えー、でも会えるかわかんないじゃん」
「それもそうか」

 毎年入学式には、各部活に勧誘するためのビラ配りが行われる。どの部も1年生が欲しいから、それはもう争奪戦になる。

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