これはきっと、恋じゃない。

 練習って?
 うーん……なにも思い当たる節がない。
もう一年近く生徒会室には通っているけれど、こんなことを言われたのは初めてだ。そもそもあそこは普通の生徒が立ち入るような場所じゃない。

 廊下の突き当たりにある、生徒会室へと続く階段を登る。この上は生徒会室と倉庫と、それを囲むような屋上のウッドデッキだけ。教室があるところからは遠いから、ほとんど生徒は来ない。

「ま、いいや。さっさと終わらせよっと」

 登りきって少し歩くと、生徒会室が見えてきた。
 鍵穴に鍵を刺と、かちゃりと小気味いい音が鳴る。

 中に入ってすぐにある長机の上には、プリントたちやファイルが置いてあった。佐藤先生が言っていたのはおそらくこれらだろう。

「これか」

 持ち上げてみると、思っていたよりも量があった。

「よい……しょっと」

 それを腕に抱えて、生徒会室を出る。外に置いてある机にプリントの束を一旦置いて、今度は鍵を閉めた。

 閉まっているか確認してプリントを持ち上げたとき、何かが視界の中で瞬いた気がして、ふとウッドデッキに目をやった。

「……わ」

 そこでは男の子たちが3人、セーター姿でガラス戸に向かってダンスをしていた。
それを見た瞬間、さっきの篠原先生の言葉に合点がいく。
 もしかして、練習ってこのことだったのかな。

 そこで繰り広げられていたダンスは上手だった。しなりのある手足とぴたりと止まる動き。ダンス部の子たちかな、と思ってじっと見ていると、真ん中の男の子と目が合う。

 ……ん? なんか見覚えが――。

 目が合った瞬間、男の子たちは踊るのをやめてしまった。誰なのかな、一度覚えた疑問は解消したい。そのまま見つめていて、気がつく。

 ――あれ、王子くんたちだ。
 気がついたときには遅かった。王子くんと、ばっちりと目が合う。

 気まずい!
 しかも、勝手に見てしまってた!

 わたしは慌てて王子くんたちから目を逸らす。
 その、瞬間だった。

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