これはきっと、恋じゃない。
集合時間の10分前に講堂に入ると、すでに他の生徒会メンバーはおおよそ集まっていた。
「あ! 千世ちゃん聞いたよー!」
入るなりわたしのことを見つけて声をかけてくれたのは、同じ副会長をやっている3年生の真悠先輩だった。
「えっ、なにをですか!?」
もしかして初日から遅刻したこと、もう生徒会メンバーにバレてるの!?
「セレピの王子くんだよ!」
「そっちね!」
危うく自爆するところだった。……いや、まあ別にバレてもいいんだけど。
「……そうなんですよ、教室がもう大変で」
「しばらくは大変だよー、あれ」
「もしかして、経験者ですか?」
「いま菅凪くんと同クラ」
英城は、2年から3年に進級するときにクラス替えがない。だから真悠先輩は2年生のときに同じ騒ぎを経験しているのだ。先輩は去年のときのことを思い出すように、遠い目をしている。
「まあでも、王子くんほどの騒ぎじゃないと思うけどね」
「そうなんですか?」
「あのときよりいまのほうが、セレピめちゃくちゃ人気だからね。王子くんはセンターだし。出演するコンサートの倍率もすごいらしいよ」
「へぇ……」
わたしはふつうの高校生の王子くんしか知らないから、全然想像がつかない。アイドルとして輝く王子くん。いったいどんな感じなんだろう。
「あ、たぶん出待ちでるから気をつけた方がいいよ」
「出待ち!?」
「知らない? 校門前すごいから。一時期は館町くんが蹴散らしてたけど」
出待ちって、どんなものか想像がつかない。
ついこの間までは割と平穏な学校生活を送れていたのに、そうはいかなくなるのかな。恐るべしセレピのファンたち。