これはきっと、恋じゃない。
「えー! 逢沢さんいいな、王子くんとじゃん!」
「いいなあ! 羨ましー!」
「私王子くんとが良い! 山田先生ペア変えてー!」
……な、なんでわたしが!?
「はいはいうるさいよ。パソコンが決めてくれたので、ペアは変えません!」
なに、それ。
っていうか、王子くん来てないじゃん学校!
「発表は来週です。それまでに資料をスライドで作ってきてください。それじゃあ今日の授業はペアワークにするので、席移動して良いからがんばってねー」
発表、来週!?
ど、どうしたらいいの……?
これから王子くんが確実に学校に来るという確証はない。今日みたいに仕事で来れない日だってあるだろうに、ペアワークだなんて。みんなが早速ペアでワイワイ進めていく中、私はひとりぼっちで教科書を眺めるけれど、内容は入ってこない。
来週発表。今すぐにでも決めてやらないと、間に合わない。でも、王子くんは学校に来てくれるのかな。
そう考えていると、教科書に影が落ちた。顔を上げると山田先生がいた。
「逢沢さんごめんね、でも逢沢さんでよかったよ」
「そう、ですかね」
「がんばってね」
「……はい」
逢沢さんでよかった、か。
生徒会で副会長をしているだけで、ほぼ無条件で先生からの信頼は得られる。それは嬉しいことだ。
でも。
山田先生と言い、先週の篠原先生と言い。あまりにもみんな、わたしのことを過大評価しすぎている。
……わたしなんか、なにもないのに。
副会長は押し付けられただけ。なんとなく校舎をうろついていたとき、先輩たちに声をかけられた。その話を聞いていたら、とんとんと話が進んで、いつのまにか1年生のころから副会長になっていただけ。
学校を変えたいとか、崇高な気持ちは全くない。将来の目標も夢もなくて、ただぼんやりと学校生活を送っているだけだ。
考えなくてもわかる。きっとこのまま、時間と共に大人になるだけ。
流れで大学行って、流れで就活してどこかの企業に入る。つまらない人生かもしれないけれど、それはごくふつうのことだ。王子くんとは、全然ちがう。
……王子くんに比べたら、わたしはつまらない人間だ。なにもすごくなんかない。
身近にちゃんと努力して夢を叶えようとしている人がいると、周りも案外大変かもしれない。自分がすごく小さくて、情けなく見えてしまうから。