これはきっと、恋じゃない。


 なんとかして話を変えたい。さすがに気まずすぎる。
 そう思った瞬間、ぴこんと頭の中に昨日の映像が流れてきた。

 ……そうだ。

「昨日の夜、セレピ? がテレビに出てるの見たよ」
「えっ!?」

 ……なんか驚かれた。そんなリアクションは予想してなかったんだけど。

「なんで驚くの?」
「その、恥ずかしくって」
「ええ、別に女装して告白してるようなやつじゃないんだから」

 そう言うと、王子くんはカッと目を見開いた。

「見た!?」
「……なにを?」
「え、あ、見たわけじゃないんだ……」

 ……え? なにその反応。
 まさか、女装して告白しているものがあるってこと?
 ……それはこんどお姉ちゃんか亜子ちゃんに聞いてみよう。

「でも、ファンの子に見たよーとかって言われるのは嬉しいんじゃないの?」
「いや、モノによる! 昨日のみたいなやつとかはいいけど、恥ずかしい系のやつはほんと、ね……」

 なるほど。
 まあ、それもそうか。

「やってるときはメンバーもやってるから恥ずかしくないけど、冷静になったらやばいんだよ。友達から感想もらうと余計に」
「……なんか、アイドルも大変だね」
「同情がいちばん辛い」

 もしかしてわたし、傷口抉(えぐ)ってなおかつ塩を丹精に塗り込んでる気がする。

「ごめん、この話はやめよう」
「……本、探そう」

 そうだった。肝心なことをすっかり忘れそうになっていた。
 世界史の発表まで残り5日。それまでに国を見つけて、資料をそれ相応のクオリティにしないといけないんだった。

「韓国とかはいやなんだよね、漢字が読めないから」
「そう。だからヨーロッパとかにしようよ、フランスとか」

 わたしたちはテーブルにスマホを置いて、世界地図を見ながら言う。

「いいね。でも、フランスって被りそうじゃない?」

 たしかに、フランスはめちゃくちゃ被りそうだな。

「じゃあ、地図帳で開いたところ、とか?」
「うわ、それいいじゃん。そうしよう逢沢さん」

 そう言うなり、王子くんは地図の本棚から地図帳を取ってきてくれた。

「じゃあ、目瞑って」
 言う通りに、わたしは目を瞑る。

「よーい、どん」
「えまってまって、なにその掛け声!」
「違った?」
「……違うでしょ」

 絶対それこのときの掛け声じゃない。
 王子くんってちょっと抜けてる気がする。

「じゃあ、えい!」

 わたしはパッと地図帳を開いた。
 そのページにある国は。

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