これはきっと、恋じゃない。

 そうと決まれば、あとは本を探すだけだ。
 でも、キルギスについての本はマニアックすぎるせいか、ほどんと見つからなかった。

「やっぱりネットの方がいいのかな」
「だね、マニアックすぎたかも」

 結局ネットで調べることにして、わたしたちはテーブルに戻る。

「発表まで1週間くらいだけど、時間ある?」
「あるよ」

 ……本当かな。つい勘繰ってしまう。
 だって、デビューかもとか言われているようなグループだ。色々と仕事だってあって忙しいだろう。

「無理しないでね。優先するべき方をしていいから」
「どう考えたって課題が優先だよ」

 王子くんは伸びをしながらそう笑う。

「……とりあえずスライドの構成を考えよっか。その方が早く終わると思う」

 王子くんがあまり無駄な時間を使わないようにしなきゃ。
 さすがにそれくらいは、暇人なわたしの役目。

 リュックの中からルーズリーフケースと筆箱を取り出すして、ボールペンと、白紙のルーズリーフを一枚抜く。適当に四角を書いているところで、やたらと視線をじるような気がして顔を上げた。

「……なに?」
「いや、真面目だなって」
「なにそれ。別に王子くんと変わらないよ」
「え?」

 わたしは先生たちからの信頼と期待を、裏切りたくないだけなのだ。……そういうところしか、自分にとって取り柄がないし。

 中途半端なものをやって、ああなんだ、逢沢なのにその程度かと、がっかりされたくないだけ。
 
 ……いつからこんな性格になったんだろ。
 めんどくさい。自分でもよくわかってる。

 そうやって、思っていることをひとりで勝手にしゃべったあと。

「そんなことないと思う」

 ふいに優しい声音でそう言われて、心が少しだけ震えた。

「……あるよ。わたしは、王子くんみたいに夢も目標もないから」

 それでも、自嘲気味に笑いながら、発表資料を作るスライドの下書きを書いていく。
 
 1枚目は、もちろんタイトル。2枚目は、王子くんが見せてくれた画像。これ、誰だと思いますか? アニメーションでキルギスなんです! と入れる。
 3枚目、キルギスの基本的情報。

 どんどん進めていく。次々と浮かんでくるのを、四角の小さな枠組みに落とし込む。

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