これはきっと、恋じゃない。

 放課後の教室。亜子ちゃんが職員室から戻ってくるまでの隙間時間で、タブレットでペアワークの資料を作る。

「あれ、王子は?」
「5時間目で早退したけど。見てなかったん?」
「うわ知らんかった! ってかさぁ松本、あいつマジですごくない?」

 王子くんといつも一緒にいる田中くんと松本くんの会話が、聞くともなく聞こえてくる。
 ……声でかいな。

「それな! テレビ見たけど、めっちゃダンスうまかったよ」
「やばいよなぁ。あいつが俺らの友達とかさ、まじ天変地異じゃん」

 ……王子くん、褒められてるよ。ダンスだって褒められてる。

 昨日の話を思い出す。
 王子くんは少し切なそうな顔をして、なんのために努力してるのかわからないと言っていた。

 でも、その努力はやっぱりちゃんと伝わってるよ。
 見る人を惹きつけるだけの魅力も、持ってる。

「なになに、王子くんの話!?」

 そこに、女の子が加わった。クラスでもワイワイとリーダー的なポジションにいる、加藤彩芽ちゃんだ。

「やばいよな、あいつ。学校じゃあさ、ふつうってかちょっと抜けてるやつなのに、テレビで見るとやっぱりアイドルだなって思うわ」
「よく見てんじゃん田中! あたし練習生のライブ行ったことあるけど、セレピだけ歓声の量とかケタちがいだからね」
「まじで!? うわ、なんか誇らしいわ」

 それ本人に言ってあげればいいのに。
 ……あ、でも当の本人は恥ずかしいんだっけ。

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