これはきっと、恋じゃない。


「てか千世ちゃんほんっと羨ましい!」
「えっ」

 急に自分の話になって、思わず顔を上げる。
 ……まさか、今までのことぜんぶ声に出てた!?

「だってペアワーク、王子くんとじゃん!」
「あ、ああ……」

 なんだ、そんなことか。
 こっそりと安堵の息をつく。

「私も王子くんとペアワークしたかったぁ!」
「わたしもびっくりだよ……」

 でも、なかなか捕まらないし、それもそれで大変なんだけどな。そんなこと言ったって、たぶんみんなにはわかってもらえないんだろうけど。

「あ! 抜け駆けダメだからね!?」
「抜け、がけ?」

「ほらぁ、連絡先交換とか!」

 ――ぎくっ!

 ……やばい、あのことはうっかり口を滑らせないようにしないと。さもなければ、この教室で生きられなくなる!

「いや、さすがにペアワークするなら連絡先教えるだろ。俺らも知ってるよ」
「はい!?」

 彩芽ちゃんは勢いよく男の子たちの方に振り向いた。
 ああ、よしよし! このままわたしの話は立ち消えて!

「でも流出とかあるから、あんま教えないんじゃない?」

 ナイス田中くん! そうよそうよ、簡単に教えていいものじゃないのよきっと!

「えー、私も知りたい!」
「話聞いてた? お前」

 彩芽ちゃん、呆れられてるじゃん。

「でもさ、下級生とか結構告ってるらしいよ」

 ……え?
 わたしは思わず、ペンが止まる。
 なんだって?

「え、誰に?」
「王子だよ」
「ほ、ほんとに?」

 いてもたってもいられなくて、つい訊き返す。聞き返したあとで、なんか変な方向で捉えられたらいやだな、と思ってタブレットに向き直る。

 田中くんはちらりとわたしの方を見ただけで、うなずいた。

「田中なんで知ってんの、そんな野暮なこと」
「それがさ、遭遇したんだよ」
「うわ気まず」
「まじそれ。死ぬかと思った」

 死ぬって、んな大袈裟な。
 ……いやでも、実際に遭遇したとすれば最高に気まずいやつである。

「で、王子くんはどうしてたの?」
「そりゃ断ってたよ、今はちゃんと夢追いたいって」
「神対応じゃん! すばらしい!」

 それはたしかに神対応だ。告白したのがわたしでも、そう言われたら悪い気はしない。
 知らないところでぐんぐん好感度上げてるね、王子くん。

< 49 / 127 >

この作品をシェア

pagetop