これはきっと、恋じゃない。
「てか千世ちゃんほんっと羨ましい!」
「えっ」
急に自分の話になって、思わず顔を上げる。
……まさか、今までのことぜんぶ声に出てた!?
「だってペアワーク、王子くんとじゃん!」
「あ、ああ……」
なんだ、そんなことか。
こっそりと安堵の息をつく。
「私も王子くんとペアワークしたかったぁ!」
「わたしもびっくりだよ……」
でも、なかなか捕まらないし、それもそれで大変なんだけどな。そんなこと言ったって、たぶんみんなにはわかってもらえないんだろうけど。
「あ! 抜け駆けダメだからね!?」
「抜け、がけ?」
「ほらぁ、連絡先交換とか!」
――ぎくっ!
……やばい、あのことはうっかり口を滑らせないようにしないと。さもなければ、この教室で生きられなくなる!
「いや、さすがにペアワークするなら連絡先教えるだろ。俺らも知ってるよ」
「はい!?」
彩芽ちゃんは勢いよく男の子たちの方に振り向いた。
ああ、よしよし! このままわたしの話は立ち消えて!
「でも流出とかあるから、あんま教えないんじゃない?」
ナイス田中くん! そうよそうよ、簡単に教えていいものじゃないのよきっと!
「えー、私も知りたい!」
「話聞いてた? お前」
彩芽ちゃん、呆れられてるじゃん。
「でもさ、下級生とか結構告ってるらしいよ」
……え?
わたしは思わず、ペンが止まる。
なんだって?
「え、誰に?」
「王子だよ」
「ほ、ほんとに?」
いてもたってもいられなくて、つい訊き返す。聞き返したあとで、なんか変な方向で捉えられたらいやだな、と思ってタブレットに向き直る。
田中くんはちらりとわたしの方を見ただけで、うなずいた。
「田中なんで知ってんの、そんな野暮なこと」
「それがさ、遭遇したんだよ」
「うわ気まず」
「まじそれ。死ぬかと思った」
死ぬって、んな大袈裟な。
……いやでも、実際に遭遇したとすれば最高に気まずいやつである。
「で、王子くんはどうしてたの?」
「そりゃ断ってたよ、今はちゃんと夢追いたいって」
「神対応じゃん! すばらしい!」
それはたしかに神対応だ。告白したのがわたしでも、そう言われたら悪い気はしない。
知らないところでぐんぐん好感度上げてるね、王子くん。