これはきっと、恋じゃない。
そよ風にはためくさらさらの黒い髪の毛。
少し中性的だけどとても整った顔立ちの男の子だった。綺麗な平行の二重に少し茶色の瞳、上を向く長いまつげに、良く通った鼻筋。色白で、どことなく消えてしまいそうな儚さと透明感があった。
息を呑む。人の容姿を見て、ここまで惹き込まれるのは生まれてはじめてだった。
その人はまるで。朝方まで見ていたあのドラマの、楢崎永久みたいな、独特の何かがあった。
「けが、ありませんか?」
「いやっ、全然大丈夫です!」
丸くて少し彩度の明るい瞳が、わたしを覗き込む。ガラス玉みたいな綺麗さに思わず顔を背けてから、はたと気がつく。
……制服、同じだ。紺色のジャケットに、青いストライプのシャツと濃いグレーのスラックス。それから、ネクタイ。紛れもなく、わたしが通う英城学院の制服だった。
「なら、よかった」
男の子はそう微笑むと、緩慢な動作で足元に落ちているわたしのスマホを拾い上げた。そして砂埃を払うように何度か手で払うと、差し出してくれる。
「はい、どうぞ。……よかった、画面割れてない」
「……すみません、ありがとうございます」
「いやいや、自分もよく見てなかったのが悪いですから」
にこり、と男の子は形のいい唇の両端を持ち上げ、白い歯を覗かせて笑った。
……あれ?
その笑顔に、言いようのない違和感があった。でもその違和感は、うまく言葉にできない。
なんて言えばいいんだろう。
「……それじゃあ」
「あっ、はい。ありがとうございました!」