これはきっと、恋じゃない。


 授業が終わってしばらく経っているから、廊下はとても静かだった。この静かさなら、さっきまでの声は結構響いていたんだろうな。

「にしても、王子くん大人気だね」
「だねぇ」

 最近は女の子たちに囲まれることはなくなったけれど、やっぱり告白とかされてるんだな。

 それもそうか、ずーっと応援していた子たちにとっては、晴天の霹靂だもんね。本当に王子くんのことが好きな子だったら、今のうちにって思うか。

「館町くんたちも告白されてたのかな」
「いや、館町先輩は蹴散らしてたらしいよ」
「蹴散らす?」

 亜子ちゃんが訊き返す。
 わたしはうなずいて、真悠先輩と森山先輩がしてくれた話をした。

「へぇ、おもしろ」
「それにしても、なんでこっちに転校してきたんだろうね」

 靴箱で上靴からローファーに履き替えながら呟く。

「ああ、それは事務所が一緒にした方がいいって言ったかららしいよ」
「なんで知ってんの!?」
「有名だよ、雑誌とかで琥太朗が話してた。ちなみに前は音坂っていう芸能コースがあるとこだったけどね」

 ……そういえば、お姉ちゃんがそう言っていたような気がする。

「ちなみに、王子遥灯が英城なのも、もうバレてる」
「うそ!」

 ほら、と亜子ちゃんは校門の方を指差す。そこには他校や見慣れない制服を着た女の子たちがたくさんいた。

「……なにあれ」
「出待ち。結構前からいるけど、千世知らなかった?」
「わたしよく裏門から帰るから……」

 知らなかった。こんなことになってるんだ……。
 流石にただのファンの行動にしては行き過ぎているような気がする。ストーカーだし、怖い。

< 51 / 127 >

この作品をシェア

pagetop