これはきっと、恋じゃない。
植物園をのんびりと歩いている。遅咲きの桜の淡いピンクがところどころに映し出される。
咲き乱れる花々を見たり、写真を撮ったりしながら、まるでゆっくりと過ごしている休日を見ているようだった。
それから番組が中程まで進むと、王子くんが現れた。
『すみません、おつかれさまです!』
『お! やっと来た!』
『発表おつかれー!』
『ありがと!』
スタッフさんたちに低い姿勢でお礼をしながら、王子くんは4人の端っこに立つも、菅凪先輩が真ん中に誘導した。
『じゃあ自己紹介して』
『はい! 最年少だけどセンターやってます、名前からキラキラアイドル王子遥灯です!』
……王子くん、このロケがあったのに、発表のためにわざわざ来てくれたの?
「やば、今何時!?」
そんなとき、リビングのドアが勢いよく開き、お姉ちゃんが入って来た。いつもは綺麗に整えられた明るい茶髪も、寝起きはボサボサだ。
「11時」
「うわ、寝過ぎた」
そう言いながら、手櫛で髪の毛を整えつつ食器棚からコップを出して、水を飲む。
「はぁー、うるさいと思ったらセレピ見てんの?」
「見てるっていうか、勝手に始まった」
「ふーん」
お姉ちゃんはコップをテーブルに置くと、わたしのとなりにどしんと座る。
「どう、セレピ」
「どうって、うるさいなって」
「あはは、たしかに落ち着いてるグループではないわ」
わたしはお行儀悪くソファに足を乗せて、立てた膝に顎を乗せる。
わいわいがやがや。
クラスの男の子たちみたいに、普通の男の子。
「どしたの」
「え?」
「ぼーっとしてんじゃん、もしかして見入ってる?」
「……いや」
もやもやと胸の中を支配するこの気持ちを、誰かに話したら少しはすっきりするのかな。そう思って、わたしは話すことにした。
「……千世さ、ペアワークの相手王子くんだったの」
「は!?」
――やっぱ言うんじゃなかったかも。早速後悔。
「この間ね、その発表があって。千世たちは1番最初だったんだけど、その発表が終わった瞬間、王子くんが帰っちゃって。そしたら、いまこれ見てたらその発表があるから遅刻って言ってて」
テレビの方に視線を移すと、5人はベンチに座ってのんびりと休みの日の過ごし方について話している。
『智成とはよく買い物行くよね』
『それでだいたいカフェ行って、めっちゃ仕事の話します』
『そうそう、おれたちワーカホリックだから』
それを聞き流しながら、続きを話す。
「結局ほんの数分しか学校にいなくて、……なんでそこまでして来たんだろって思ったの」
……なんか、結構どうでもいいことで悩んでるかもしれない。
来た理由? そんなの決まってる。王子くんだって成績が欲しいし、やらないといけないから来ただけだ。
深い意味なんて、きっとない。
お姉ちゃんは「んー」と考え込みながら、水を飲む。
「――思いやりだね、それは」
「思いやり?」
「そ。王子遥灯は優しい子だから」
「なにそれ誰目線」
「ほんとだよ、みんな言ってるから」
みんな、か。
たぶんそれは、長い間王子くんたちを見てきたファンのことだろう。
表しか知らない。けれど、長い間いろんな王子くんを見てきたみんながそう言うなら、そうか、王子くんは優しいのか。
……やさ、しい。
ほんとに、それだけ?
そのとき唐突に思い出した。あの日、図書館で抱きしめられてカーテンに隠れたこと。
じゃああれも、優しさなの?
わたしが面倒なことに巻き込まれないように、かばってくれたってこと?