これはきっと、恋じゃない。
……推しっていうだけなら、まだ良いだろう。
でもわたしは、王子くんの連絡先だって知ってしまっているし、なによりペアワークで絡んでいる。
「良からぬウワサ、立ちかねないよね」
そう。いつ誰にウワサを流されるかわからない。
変なウワサを流されて迷惑するのは、王子くんだ。わたしは学校内だけだからいいけど、王子くんは本当に、世界中にいるファンを裏切ることになりかねない。
だから、これはあまりたくさんの人に言えたものじゃない。
「もし本当に恋愛として好きになったら、結構大変だから」
「当たり前だよ、それとこれとはべ・つ」
恋愛として好き? そんなのあり得ない。
これはリアコじゃない。ただの推しだ。
努力をしていてすごいとか、尊敬とか、そういうやつ。
「そろそろ戻ろ」
そう言いながら、グループワークルームのドアを開けた時だった。
「あ」
「……うそ」
目の前に、王子くんがいた。
「おはよう」
王子くんは、とびきりの(推しフィルターかかってるかも)笑顔で言った。
「お、おはよう……」
……朝から会うなんて、思ってもいなかった。
「早速じゃん、千世」
亜子ちゃんが冷やかして来るのを無視して、少し早歩きで教室を目指す。
そしてすぐさま席に座って、また突っ伏す。
「……やばい」
「ふかーい沼に入ったわね」
「うう……」
出席番号も離れているし、授業を受ける時に王子くんが後ろなのはこれ幸いだった。
……でもそれは、ほんの束の間のことだったのである。