これはきっと、恋じゃない。
 

 一通り授業を終えて、6時間目のロングホームルーム。

「じゃあ1か月経ったところだし、席替えしまーす」

 えええー、という声が教室中で巻き起こる。

「先生がクジ作ってきたのでみんな引いてー」

 佐藤先生は番号が書かれた紙をホワイトボードに貼ると、テレビとかでよく見るあの四角い箱を持って歩き出した。

「逢沢から引いてー」
「はーい」

 結構入ってるんだなぁ、と思いながら一つを取り出す。

 開いてみると、マジックで5と書かれていた。ホワイトボードに貼られたプリントと照らし合わせると、今いる列の一番後ろの席だった。

 やった、一番後ろだ!

「千世どこだった?」
「一番後ろ!」
「え、班一緒だよー!」
「うそ! やったー!」

 亜子ちゃんと同じ班かぁ。
 なんか良い感じになりそう!

「それじゃあ机ごと移動してー」

 席は後ろだし、亜子ちゃんと同じ班だし。なかなか楽しい学校生活が送れそう。

 机を動かし終わってから、亜子ちゃんとのんびりおしゃべりしていると、急に亜子ちゃんが唖然としたような表情をした。

「なに、どうしたの」
「ち、千世」
「なによ――」

「あ、逢沢さんだ」

 ……え?

 ゆっくりと、隣を見た。……どことなく、匂ったことのある甘い匂いがする。
 黒髪サラサラ、少し明るい茶色の瞳。

「……お、王子くん」

 名前を呼ぶと、王子くんはにこりと笑った。白く輝くような歯が、桃色の唇から覗く。

 前言撤回。

 ――無理だ!!
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