これはきっと、恋じゃない。
亜子ちゃんが振り返る。
「でもさ、ミュージカルって結構大変じゃない?」
台本を覚えるのも大変だし、道具も作らないといけないし、照明とか色々。去年の音楽祭を見ていて思ったけれど、どこのクラスも結構苦戦しながらやっていた。
でも、みんなはやる気に満ち溢れていた。
「なんとかなるよ」
亜子ちゃんもだ。
「ついでに演目も決めるねー! なにがいい?」
うーん、ミュージカルか。
思いつくのは、レ・ミゼラブルとかだけど、高校生がやるような内容じゃないよなぁ。
そう思いながら教室に視線を彷徨わせていると、王子くんが目に入った。
やっぱりどこかぼーっとしているみたいで、いつもと違うような気がする。
疲れてるのかな。
わたしには分かり得ないことがたくさんある。きっと色々と忙しいのだろう。
「ね、千世! やらない?」
「え!?」
思わず大きな声が出た。クラスの視線が集まる。
「たしかに、千世ちゃんは当日生徒会の仕事あるもんね」
「あ、うん……」
え、なんの話……?
「じゃあ、千世ちゃんと亜子ちゃんお願いします!」
そう言われて、彩芽ちゃんがホワイトボードに向き直り何かを書く。
脚本係――宮本、逢沢。
――脚本係!?
「脚本!?」
「そ。私とやろうよ」
「なんで!? わたし、脚本なんて書いたことないよ!?」
「私もないよ。でもいいじゃん、やろうよ」
亜子ちゃんてば軽い……!
うう、これもう今更断れない雰囲気だ。
どうしよう。……でも、わたしひとりでやるわけじゃないんだもんね。
……うん。
「んん……わかった!」
「やった!」
こういうところだ。わたしの悪いところ。
……また流れで引き受けちゃった。