これはきっと、恋じゃない。


 亜子ちゃんが振り返る。

「でもさ、ミュージカルって結構大変じゃない?」

 台本を覚えるのも大変だし、道具も作らないといけないし、照明とか色々。去年の音楽祭を見ていて思ったけれど、どこのクラスも結構苦戦しながらやっていた。

 でも、みんなはやる気に満ち溢れていた。

「なんとかなるよ」

 亜子ちゃんもだ。

「ついでに演目も決めるねー! なにがいい?」

 うーん、ミュージカルか。
 思いつくのは、レ・ミゼラブルとかだけど、高校生がやるような内容じゃないよなぁ。

 そう思いながら教室に視線を彷徨わせていると、王子くんが目に入った。
 やっぱりどこかぼーっとしているみたいで、いつもと違うような気がする。

 疲れてるのかな。
 わたしには分かり得ないことがたくさんある。きっと色々と忙しいのだろう。

「ね、千世! やらない?」
「え!?」

 思わず大きな声が出た。クラスの視線が集まる。

「たしかに、千世ちゃんは当日生徒会の仕事あるもんね」
「あ、うん……」

 え、なんの話……?

「じゃあ、千世ちゃんと亜子ちゃんお願いします!」

 そう言われて、彩芽ちゃんがホワイトボードに向き直り何かを書く。
 脚本係――宮本、逢沢。

 ――脚本係!?

「脚本!?」
「そ。私とやろうよ」
「なんで!? わたし、脚本なんて書いたことないよ!?」
「私もないよ。でもいいじゃん、やろうよ」

 亜子ちゃんてば軽い……!
 うう、これもう今更断れない雰囲気だ。

 どうしよう。……でも、わたしひとりでやるわけじゃないんだもんね。
 ……うん。

「んん……わかった!」
「やった!」

 こういうところだ。わたしの悪いところ。
 ……また流れで引き受けちゃった。

< 72 / 127 >

この作品をシェア

pagetop