これはきっと、恋じゃない。
その日の放課後、早速わたしたちは脚本について話を始めた。
「ねぇ、なんで?」
自販機で買ってきた紙パックの抹茶ラテに、ストローを刺しながら、亜子ちゃんに尋ねる。亜子ちゃんはりんごジュースを飲む。
「何が?」
「だから、脚本」
「……ああ」
机にりんごジュースを置いた亜子ちゃんは、ルーズリーフを1枚取り出した。それから、筆箱からボールペンを取るとカチカチとノックをする。
「私ね、将来はイラストを仕事にしたいんだよね」
――頭をガツンと殴られたような気がした。
「……うん、知ってる」
知ってた。
亜子ちゃんはすごく絵がうまい。中学から美術部の展示を見てきたけれど、1人だけ抜きん出ている。
だからなんとなく、将来はそういうのを仕事にするんだろうなと思っていた。
でもそれはわたしが勝手に思っていただけで、亜子ちゃんから直接聞いたわけではない。
この瞬間、はじめてそれを直接聞いた。
「私が考える世界を、みんなに伝えたいなって。それはイラストにも役に立つと思うのよね」
……ああ、やっぱり、わたしとは全然違う。
亜子ちゃんも、王子くんと同じなんだ。
同じように、目標を持ってがんばっている。
わたしだけ、それがない。
置いていかれている。近い距離にいる友達だと思っていても、本当は結構離れているのかもしれない。なぜか思う。
「考えてるのはあるの?」
「少しだけね」
そう言うと、亜子ちゃんはルーズリーフに向かってペンを走らせ始めた。真っ白のルーズリーフはやがて、亜子ちゃんの描く世界に染まっていく。
わたしはそのペン先を、ぼんやりと見つめていた。
「千世さ、その後の推し活はどうなの?」
「へ?」
思わず間抜けな声が出る。
「王子くん。見てないの?」
「その話ね……」
息を吐く。抹茶ラテを飲みながら、窓の外を眺める。山の稜線が、かすかに霞んでいた。