これはきっと、恋じゃない。

 5月も下旬に入ると、テスト期間に入った。
 ひとまず音楽祭の準備は置いておくことになるから、生徒会もこの期間だけは活動がなくなる。

 授業もテストモードになってきたけれど、わたしの隣は空席ばかりだった。

 数学の授業中、やらないといけない問題をやらずに、わたしはぼーっと外を見つめる。春にあれだけカラフルで綺麗だったはずの景色は、今ではどんよりとした雲に覆われて、褪せて見える。

 最近よく、将来を考えるようになった。

 たぶんいままでのわたしは、そんなことを考えることはなかった。確実に王子くんの影響だ。……それと、亜子ちゃん。

 こんなに将来の目標がある人たちばかりに囲まれていたら、わたしだって考える。オセロで黒に挟まれた白は黒になるように。

 将来、なりたいものか。
 一度ノートに視線を落として、すぐに王子くんの机を見る。

 羨ましいな、ほんと。

 ……そういえば、王子くんてばテストは大丈夫なのかな。授業中にテストに出るところを教えてくれる先生はいるけど、伝わってるのかな。

 田中くんたちが教えてるとは思えないし。
 ……いや、さすがに教えてるか。

 でももし、教えてなかったら?

「じゃあこの問題、逢沢」
「え?」

 突然呼ばれた名前に、ホワイトボードへと視線を移す。

「逢沢、解いて」
「ああ、はい……」

 わたしは前に向かう。佐藤先生からマーカーを渡してもらって書かれている問題を見て、固まる。
 なにこれ。

「え、なにこれ……」
「おい」

 笑いが起きた。……笑い事じゃない。

「やばい、全然わかんない」
「これテスト出すからね」

 助けを求めるように先生を見た。佐藤先生は笑いながらそう言うと、横から色々書いてくれたけど、それでもサッパリわからない。

 ……人のこと考える前に、自分のこと考えないと。このままだと、テストがやばい。

 背中に冷や汗がたらりと伝った気がした。

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