これはきっと、恋じゃない。
それは、わたしの席であろう場所の3席後ろ。つまり、後ろから2番目あたりの席に、女の子が人だかりを作っていた。
「……ああ、あれね」
もしかして、瀧山くんと同じクラスなの? でも、滝山くんなら出席番号であんなところになるはずがないし、そもそも囲まれるほどかと言われればそこまでではない。
「すごいことが起きたのよ」
「すごいことって……?」
亜子ちゃんは、ふふんと少し得意げに笑った。
もし瀧山くんだとしたら、亜子ちゃんはこんな言い方しない。亜子ちゃんは瀧山くんのことなんて全然興味ないからだ。亜子ちゃんが好きなのは、かるきす? というアイドルだけだ。
「あのね、ついにうちの学校に、セレピ高校生組が揃ったの」
「……え、なんて?」
セレピ?
高校生組?
「――ああそうだった。千世、アイドル興味ないんだった」
「……まぁ、なんかみんな同じ顔に見えるんだよね」
「やれやれ……」
そう言いながら、亜子ちゃんは大げさに長い溜め息を吐く。
「セレンディピティ、通称セレピ。cipherと同じ事務所の練習生グループよ」
「……cipher(サイファー)と、同じ事務所?」
「あら、千世がcipher知ってるなんて珍しい」
「ほら、うちお姉ちゃんが好きだから。楢崎永久が出てるドラマも見てるし」
「ああそっか、そうだったね」