これはきっと、恋じゃない。
「やりたいことないって人も、そろそろオープンキャンパスとか行ってみろよ。案外そこで見つかったりするんだから」
――オープンキャンパス。
どこに行けばいいんだろう。とりあえず、お姉ちゃんが言っている大学とか?
「はぁ……」
また、ため息。
王子くんの席から視線を外して、少し湿って色が変わっているグラウンドを眺める。
「それじゃあ音楽祭の準備始めてください。……と、逢沢は先生のところに来て」
「えっ?」
突然呼ばれた名前に驚いて先生を見ると、目があった。……なにを言われるんだろう。さっきほとんど話を聞いていなかったのがバレたのかな。
それとも、あまりにも数学の点数がひどかったから?
……それは恐ろしすぎる。
各々がやることのために席を立った。わたしも立ち上がって、先生のいる教卓に向かう。
「ん、ちょっと来て」
「え、なんで怖いんですけど」
「ここじゃあれだから」
ここじゃ、あれ?
さっと血の気が引く。やっぱり数学!?
「わたしなにかやらかしましたっけ……」
あの日以来遅刻もしてない。
はっ、……まさか、王子くんのことが好きなの、バレた? やめとけって注意喚起? 最悪!
「ちがうちがう! 逢沢のことじゃないよ」
佐藤先生はそう笑いながら、わたしを手招きする。少しすり足気味の先生は、空いていたグループワークルームのドアを開けた。
「まぁ座って」
言われるがまま、座る。でもなにを言われるのか不安で、テーブルから椅子を少し離す。
「んーっと、まあなんつーかな」
先生は頭を触りながら少し悩むような様子で呟く。
心臓がドキドキしてきた。
「王子のことなんだけど」
「――はい?」
……なんだ、ほんとにわたしのことじゃないんだ。よかった。
そのことに、ほっと息を吐く。でも、なんで王子くんのこと?
「王子くん、どうかしたんですか」
「いやまぁ、……逢沢は王子のこと、どう思ってんの?」