これはきっと、恋じゃない。

 教室に戻ってから、大道具の製作に加わった。
 段ボールに亜子ちゃんが下書きしたものを、わたしは絵の具で塗っていく。

「でーきた!」

 その声に顔を上げると、亜子ちゃんは画用紙に絵を描いていた。だれかの肖像画のようなものだ。

「なにそれ」
「楽聖風の山田先生」

 ……よく見てみれば、似てる。

「うわ、似てる……」
「でしょ!? よし、次は佐藤先生描かなきゃ」

 腕まくりすると、亜子ちゃんは意気揚々と2枚目の画用紙に取り掛かった。

 やっぱり亜子ちゃんってばうまいなぁ、絵。

 そういえば、わたしは王子くんにへただって言われたっけな。思い出して、胸がじんわりとあたたかくなった。

 そのときだった。

「千世ちゃーん!」

 呼ばれた方を振り返ると、なぜか教室の入り口に森山先輩がいた。

「森山先輩?」

 今日なにかあったっけ。なにもなかったはずだけど。
 そう思いながら、わたしは筆洗に筆を置いて先輩のもとに駆け寄る。

「……なにかわたし忘れてました?」

 森山先輩は笑いながら首を横に振る。

「ちょっと顔貸して?」
「え」

 なにそのヤンキーみたいな誘い方。

「な、なんですか」
「ここじゃあちょっと」

 ――デジャヴ。本日二度目だ。
 なんなの、一体!

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