これはきっと、恋じゃない。
8.遥けき灯の向こうへ③
イヤホンから、今度のツアーで踊るカルキスの曲が流れている。ひとつひとつ動作を確認するように、曲を無視してゆっくりとしたテンポで踊る。
鏡に映る自分の姿は、まだあのころの楢崎永久には程遠く、まだまだ努力しないといけないと感じさせる。
首筋に汗が伝う。踊るのをやめて、タオルを取りに行ったとき、スタジオの扉が開いた。他のメンバーたちが来た。
「遥灯」
制服姿の智成が近づいてくる。なに、と表情だけで問いかければ、「座れ」と言われる。
「なんなの?」
「なんでまた学校サボったんだ」
「……別に」
「別にじゃないだろ」
学校に行く時間を、他のものに使いたいだけ。本当の理由はそれだけど、正直に言ったら怒るだろ。そう思いながら、タオルで汗を拭く。
「――逢沢さんから聞いたよ」
突然出てきた意外な名前に、遥灯は顔を上げて智成の方を見た。
いまなんで、その名前が出て来るの?
「昼休憩もずっと練習してるんだって?」
琥太朗が優しい声で言いながら、隣に座る。すぐに触れることができるくらいの距離だった。
「遥灯くんさ、休憩中くらい休みなよ。お友達と遊んだりさ」
「……そんな時間、あるの?」
思わず口に出すと、空気が変わった。
「よし、じゃあそろそろ始めるよー」
でも、それ以上の話は振付師が来たからできなかった。そんな空気のなかやったからか、いつもよりミスも多く、怒られる回数も多かった。