これはきっと、恋じゃない。
「……ほんとは、助けてほしかった」
真っ暗な闇は、鏡のように自分の顔を写す。旭羽とそっくりとは言われなかった。旭羽はいわゆる塩顔だったから。
「なにをやってもうまくいかない気がして、旭羽との約束を、守れないことが怖くて」
どれだけやってもその不安は拭えなくて、次々と押し寄せる大きな波に動いてないと耐えられなかった。
ひとりで集中してダンスをしていたら、なにも考えなくて済んだ。
自分じゃないだれかになっているときだけは、その不安が見えなくなった。
だからより熱中した。
教室でじっと授業を受けていたら、その不安が押し寄せて押し寄せて、おかしくなりそうだった。
「兄ちゃん……」
なんで、いなくなったんだよ。
なんでそんな、呪いみたいな言葉を吐くんだよ。
あのときは、あのときだけは、すべてがうまくいくと思っていた。俺たち二人なら、永久くんみたいなアイドルになれると信じていたのに。
届かないんだ。その声はもう、二度と。
「なんでも話してよ、そうやって」
車が停まる。気が付いたら、家に着いていた。
見慣れた玄関ドアが夜闇に浮かび上がる。
「一応これでもメンバー最年長だし、遥灯くんのことはよく知ってるつもりだよ」
「……うん」
車のドアが開く。
「じゃあ、また明日ね!」
「また明日」
ドアを開ける。いつもの匂いがした。
親に適当にあいさつをして、部屋に戻る。
荷物を置いて、部屋をぐるりと見渡した。そのなかで、机に飾ってある写真が目に入った。
揃いのキラキラの衣装。劇団で、同じミュージカルに出たときの写真だ。他にも、事務所に入ってはじめて二人で出た番組の写真。
こたくんと一佳くん、兄ちゃんの3人の写真。
ダンスが得意で、俺にたくさん教えてくれたよね。
一緒に永久くんに憧れて、思い切ってあの場所を飛び出した。色んなことがあった。他の人よりテレビに出ていたから妬まれて嫌がらせもされた。でも、兄ちゃんが守ってくれた。
兄ちゃんとこたくんと、一佳くんでグループを組むことになったとき、すごく嬉しかった。この3人で、デビューしていくことになるんだろうと思っていた。
でも、ちがった。
ーーデビューを目指すのは、自分の番になった。
「……約束、守れるようにがんばるから」
報われると信じて、努力するしかない。
遥灯はスマホを手に取る。そして開くのは、クラスメイトの逢沢千世のトークルームだった。