これはきっと、恋じゃない。


 雨の音楽祭、当日。

 例年通り、相変わらずやっぱり雨だった。
 空気はじめじめとしていて、鬱陶しい湿度がつきまとう。息が詰まるような感じがした。

 講堂の舞台袖で、森山先輩が話す開会の言葉をぼんやりと聞く。

「やっぱり雨だったね」

 真悠先輩がぼそりと呟くのに、香奈先輩が言葉を続けた。

「森山、雨男説」
「あはは、あるわ」
「そういえば、去年も雨でしたよね」

 ザーザー降りで移動がびしょびしょになって大変だった気がする。

「いや季節だろ。てか静かにしろ」

 わたしたちのやりとりに、そう冷静に突っ込んだのは佐藤先生だ。ついでに怒られた。
 舞台袖から、生徒たちが座っている座席を眺める。青いシャツが目立つ。あとは時々白いベストたち。

 やっぱり王子くんは休みだった。それでふと、真悠先輩に問いかける。

「今日って、館町先輩たちもお休みですか?」
「うん、休みだったよ」
「へぇ……」

 じゃあグループでお仕事があるのかな。

「まあ、来てもやることないだろうしね」
「え?」

 思わず訊き返すと、香奈先輩が前髪を触りながら言う。

「準備もほとんど出てないから、やれることないよ」

 頭を殴られたような衝撃がわたしを襲った。
 ……香奈先輩がそう言うなんて、少しショックだった。

 拍手が巻き起こる。森山先輩が挨拶を終え、礼をしたからだった。

 みんな冷めてる。
『だってあの人たちは、準備もなにもしていないから』。当日にはなから参加するつもりがないから、準備も参加しないということだろう。

 そして参加することを、クラスも望んでいない。
 どうせ当日来ないんだから、やる意味ないよねって。
 それは明らかな拒絶だ。

 勝手じゃん。
 好きなだけキャーキャー言って、いざとなれば拒絶する。

 アイドルだから。特別だから。
 だから、普通でいられない。
 どうしたってみんなと同じとはいかない。けれど、香奈先輩のそれはちがうと思う。

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