これはきっと、恋じゃない。
クラス発表が始まった。
わたしと森山先輩は誘導だったけれど、いまはやることもなく待機するだけで、ホールへと続く階段に座った。
順番把握のために開けられたドアからは、ミュージカルの陽気な音楽が漏れ出ている。
「疲れたな」
「わたしはまだ誘導しかしてないですけどね」
「そうだったな」
次のクラスはいつ来るんだっけ、と思ってプリントをポケットから出したときだった。
「あ」
「え、なんですか」
「タテから伝言」
伝言? なんで館町先輩が?
「遥灯のこと気にしてくれてありがとう、だって」
「……気にしてって」
気にしてない、と言えば嘘になる。
気になっている。……好きな男の子だから。
話したことだって、いつのまにか目で追っていたから知っていただけ。
わたしだって、ファンの女の子たちと変わらない。
「驚いてた。遥灯はちゃんと、馴染めてるんだなぁって」
少し遠くを見つめるように先輩が言った。
それを見て、さっき、真悠先輩たちが言っていたことを思い出す。
「それは、王子くんが馴染もうとしたからだと思います」
別に館町先輩たちが馴染もうとしなかったわけじゃない。それでも、3年間過ごしていくなかで、馴染もうとしたけどできなかった諦めとか、周りが自意識過剰になったとか、そういうのがあったからだ。
わたしたちはまだ、何も知らないからうまくやっていけているだけ。
「……よく知らないですけど」
それもこれもぜんぶ、知っているつもりだ。
つもり、なだけ。
「見えてるよ。ちゃんと周りが」
森山先輩が息を吐く。
静かになる。
……周りが見えることなんて、大したことじゃない。
注ぎそうになった視線を、ただ他にバラせばいい。大した能力じゃない。
「森山先輩って、大学はどんな学部に行くんですか」
話を変えたくて、そう言った。
適当に埋めて書いた進路調査書を思い出す。きっとこの人だって、きちんと目標を持っているにちがいない。
「社会学」
……ほら。
「なんで?」
「周りを見たいから」
目が合う。
「ふぅん……」
理由がないといけないのかな。
すべてを成し遂げるために、理由は必要?
「なんとなく、じゃだめなんですかね」
「俺にはわからん」
肝心なところを逃げられた。陽気なミュージカルの音楽は、いつのまにか悲しそうな音に変わっていた。
――サポートする仕事がいいよ。
王子くんが言ってくれた言葉を思い出す。
それって、どんなものがあるんだろう。
そう考えていたときだった。