これはきっと、恋じゃない。


 森山先輩が、太ももを叩いて立ち上がった。
「あのさ」と、意を決したようにわたしを見下ろす。

「逢沢、次の会長任せるな」
「――え」

 呆然と見上げる。森山先輩はにこりと笑ってうなずいた。

「俺はお前がいいよ。みんな、絶対賛成してくれる」
「いや、でも」
「逢沢しかいないよ」

 必要とされている。
 期待されている。
 ……その想いを知ると、わたしはなにも言えなくなる。

「逢沢ならできるって思ってるから」

 屈託のない森山先輩の笑顔。

 その笑顔を見た瞬間、わたしの前にそれはそれは大きな期待が降ってきた。重石のように大きく重たいそれは、わたしの心を水底深くに落とし込んで、浮き上がらせないようにする。

「……はい」

 拒否権なんてない。
 拒否すれば期待を裏切ることになる。

「せんぱーい!」

 その声にわたしたちは振り返ると、水野さんが手を振って呼んでいた。

「そろそろです!」
「わかったー」

 森山先輩が立ち上がる。ほら、と声をかけられる。

「行くぞ」
「はい」

 森山先輩の大きな背中を追う。
 わたしはこの人のように、学校を背負って代表者としてやっていけるのだろうか。

 いっきに気持ちが沈んでいった。
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