これはきっと、恋じゃない。


 沖縄が梅雨明けし始めたころ、雨の音楽祭が終わり、生徒会もメンバーが入れ替わった。いつもの生徒会室に行っても、森山先輩も香奈先輩も真悠先輩も、もういない。

 一度、新メンバーだけで会議があったけれど、やっぱり違和感が拭えなかった。これから少しずつ慣れていくんだろうけれど、いまはまだ過去の思い出にすがっている。

「千世、帰らないの?」

 授業が終わって、タブレットを操作していると亜子ちゃんに声をかけられた。

「うん、生徒会でやらないといけないことあって」

 音楽祭が終わっても、夏休みがあるから早めに取り組まないといけないことが結構ある。音楽祭の反省会、学園祭の準備。その他もろもろ。
 仕事は思ったよりも山積みで、会長という仕事の重さを知った。

「そっか。無理しないでね。あ、そうだ。王子遥灯鑑賞会でもする?」
「あはは、なにそれ」

 王子くんの鑑賞会かぁ。楽しそう。……だけど。

「もうちょっと落ち着いてからやる」
「そっか。じゃあ私行くね」
「うん!」

 手を振って、またタブレットに向き直る。キーボードで報告書を打ち込んでいく。生徒会室でやった方が早いかな。

 手帳を開く。
 今日やることは、音楽祭の報告書を作って佐藤先生に提出、それから学園祭のことで前田先生のところに行く。

「……よし」

 リュックを背負いかけて、ふと視線が隣の席に留まる。
 王子くん。

 今日はお休みだった。
 ……王子くんも、仕事をがんばってる。
 なら、わたしだって。


 前田先生のところに寄ってから、生徒会室にこもってキーボードを叩く。それぞれがやってきた役職、動きを細かく記入する。これが適当だと、来年やるときに苦労する。結局は自分に返ってくるから、きちんと書かないと。

 森山先輩たちの名前を打ち込んで、ふぅっと息を吐く。

 まだいなくなって少ししか経たないのに、寂しい。
 ……わたし、これからほんとにやっていけるのかな。

 キーボードから手を離し、ぼーっとしたときだった。生徒会室の扉がゆっくりと開かれる。

 ――もしかして、先輩たち?

「あ、先輩!」

 ちがった。
 水野さんだった。
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