私だけのヒーロー
とある廃ビルの立体駐車場。男たちの押し殺した荒い息遣いと殺気に満ちている現場を、私は固唾を飲んで見守っていた。
4人の屈強な男達を相手に戦うのは、サングラスとマスクで顔を隠し、全身真っ黒な服に身を包んだ男性。
185センチはあろうかという長身に、服の上からでもわかる鍛え上げられた体躯。
しなやかな筋肉は無駄がなく、細身のスタイリングはモデルのようによく似合っていた。
殴りかかってきた拳を腕で受け流し、反対の手で風を切る音が聞こえそうな速さの突きを繰り出す。
大きな足音を響かせ、「待てコラァ!」と怒号を上げながら追い詰める男達に対し、黒ずくめの彼は無言を貫き、淡々と相手の急所を狙って華麗に立ち回る。
ひとり、またひとりとうめきながら男達が倒れていく。
大学2年の頃に全国大会で優勝したという空手仕込みの後ろ回し蹴りを最後の1人の顎に抉り込み、相手が吹っ飛んだ所でこの映画の監督、三上さんの野太い声が響く。
「はい、オッケー!」
ピンと張っていた緊張の糸が緩むと同時に、多くの女性スタッフの恍惚のため息が漏れるのが聞こえた。