私だけのヒーロー

その後、わざわざバイト先まで送ってくれた本庄さんに事情を聞いた母は『あら、それならぜひうちに来てほしいわー』と笑顔で言い放った。

『大学2年生ってことは、もうそろそろ就活を始める頃でしょう?どう?スーツアクターに興味ない?』
『お、お母さん!』

ただ善意で助けてくれただけの彼にグイグイ勧誘する母に困惑していると、意外にも本庄さんは興味を示した。

『スーツアクターって、戦隊モノとかの?』
『そう、今は〈中の人〉って言ったりするのよね。そういう被り物からアクションのスタントまで、全部をこなすのがスーツアクターよ』
『社名の『MIZUKI』って、スタントマンの観月龍二と関係あったりします?』

本庄さんの口から父の名前が出たことに驚いた。

『あの、父を知ってるんですか?』
『父?』
『あ、私、観月さくらっていいます。観月龍二の娘で』
『私が観月幸恵。龍二の妻でここの代表よ。興味があるなら、進路を考える選択肢のひとつに入れてもらえたら嬉しいわ』

その日はそれだけで帰っていった本庄さんが、まさか本当にうちの会社に入るだなんて、私はもちろん母も本気では思っていなかっただろう。

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