私だけのヒーロー
その日本庄さんは外部の仕事でいなくて、私はちょっと残念に思いながらもリハーサルをこなして舞台に出た。
すると、そこは異様な空気に包まれていた。
客席にはおよそ戦隊ヒーローには興味がないであろう男性が大勢陣取っていて、周りの親子連れのお客さんは困惑気味。
いざショーが始まると、子供たちと歌やダンスの練習中も『さくらちゃーん』と大声で呼びかける人がいたり、『彼氏はいますかー』と野次のように笑いながら叫んだりと、子供たちが心から楽しめるような雰囲気ではなく、ヒーローショーは台無しになってしまった。
訳もわからぬまま落ち込んでいると、私は同じショーのスタッフである先輩からネットニュースを見るよう連絡を貰った。
言われた通り検索してみると、そこには『可愛すぎるショーのおねえさん』という見出しとヒーローショーで踊っている私の写真が載っており、記事のコメント欄には『確かに可愛い』『合法ロリ』『どこで会えるの、俺もさくらちゃん攫いたい』など、今思い出してもゾッとする文面ばかり。
中でも悪意があったり個人を特定できるような記事はいつの間にか消えていたけど、私はそのことがきっかけで舞台に立つことをやめた。
自分のせいで子供たちが楽しみにしているショーを台無しにしてしまったことがショックで許せなかったから。