私だけのヒーロー

「本庄がバイクスタントって一体どういうことですか?!」

倍以上年齢が上の助監督さんに食って掛かる私に、彼は申し訳無さそうにしながら簡単に説明してくれた。

「元々手配していたカースタントの人がひとり、今朝体調不良で病院に担ぎ込まれたんだって。でも撮影もちょっと押してるし、出来れば今日撮っちゃいたいって監督が…」
「それはわかりますけどっ」

だからって、どうして本庄さんなの?

本来なら来れなくなった人の事務所が代打を探すのがセオリーなのに。

納得できない私が契約と違うと反論しようとすると、早瀬さんがこちらにやって来た。

「俺が聞いたの。『あんたは出来ないの?』って」
「そんな……っ!」

無責任にそんなことを言う早瀬さんを睨みつける。

「本庄はボディスタントのみで、カースタントは契約には入ってないはずです!」

そもそも殺陣などのアクションを役者の代わりに演じるスーツアクターと、車やバイクを使うカースタントマンはまったくの別もの。

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