私だけのヒーロー
映画制作会社が依頼していたカースタントの事務所から、スタントマンの急病の知らせがあったのが30分ほど前。
代打のスタントを探すと言っていたらしいが、まだ連絡がきていないところをみると難航しているようだ。
このチャンスを逃す手はない。
「俺がやります。さくらは渡さないですよ」
早瀬に宣戦布告をし、彼の反応を見ることなく監督を探す。
きっと、さくらは真っ青な顔をして反対するんだろう。
彼女が俺と距離を置こうとしているのも、その原因もわかっている。
さくらは怖いんだ。
父親と同じスーツアクターと、必要以上に親密になることが。
理解は出来る。
だが納得してやることは出来ない。
自惚れでなければ、彼女も俺と同じ気持ちなはずだ。
社長の進言通り気長に待ってはきたが、彼女を逃がすつもりは毛頭なかった。