私だけのヒーロー
成人して真剣に進路を考えなくてはと思っていた大学2年の冬に、さくらに出会った。
ガラの悪い男達に絡まれていたところを助け彼女を送っていったら、そこは俺が子供の頃から憧れていた『伝説のスタントマン』観月龍二が所属していた会社だった。
彼の妻が社長で、助けた女の子は龍二さんの娘だという。
アクション映画が好きで、公開中の作品から30年以上前の古い作品まで片っ端から見ていたが、名作といわれるアクション映画には必ず観月龍二の名前があった。
彼に憧れ空手を始め、大学の頃には全国制覇も成し遂げた。
とはいえ、彼のようにスタントマンになりたいと考えたことはなく、社長からスーツアクターに興味はないかと誘われた時は驚いた。
父は投資運用会社を経営していて、俺も中学に入る頃には知っていて損はないと株や投資など一通り資産運用の知識を詰め込まれたが、特に父の会社に入って後を継ぐことを強制されることもなかった。
それでも当時の俺の周りは皆、俺が父の会社に入るであろうと疑わない人ばかりだったから、彼女たちとのちょっとした会話はしがらみのない身軽さがとても楽に感じたのを覚えている。