私だけのヒーロー

「……お坊ちゃんだったんですね」
「ははっ。がっかりしたか?会社継いでたら桁違いに稼いでた」
「まさか」

大会社の御曹司になんて興味ない。

私が惹かれたのは、誰もが見て見ぬ振りをしていた中、ただひとり助けてくれたヒーローの背中。

そしてスーツアクターという仕事に真摯に向き合い、努力し、人を惹き付けるアクションを演じる本庄さんだ。

ふるふると首を横に振ると、リラックスした様子だった本庄さんの表情に刺すような真剣さが滲む。

「さくら」
「はい」
「撮影終わったら話したいことがあるって言ったろ」
「……はい」

アクションシーンの撮影はまだ残っているが、本庄さんが担当するバイクスタントのシーンは今日すべて撮影を終えた。

その足で、私はここに連れてこられたのだ。

覚悟を決めて、私は本庄さんの瞳を見つめる。

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