私だけのヒーロー

本庄さんは固まってしまった私の腕を引き、そのまま胸の中に抱きしめる。

急な抱擁にドキドキしながらも、あたたかいぬくもりにほだされて、私はずっと心の内にあった想いを口にする。

「……こわかった。父のような危険なスタントも出来ちゃう本庄さんと、これ以上近くなるのが……。大きな仕事が入るのを一緒に喜べないことも、いつか…大変な怪我をするんじゃないかってことも……。でも」

一旦言葉を切り、大きく息を吸うと、いつか感じたシトラス系の香水が近くで香り、背中に回された腕にぎゅっと力が込められた。

「本庄さんが入院している間、母と話をしました」
「……社長と?」
「私、父の事故のこと以上に、母が父の棺にすがって泣いている姿がずっと心の底に焼き付いて離れなかったんです。あんなふうに、いつか私もボロボロに傷つくんじゃないかって、こわくて……」

あの撮影の直後、なかなか立ち上がらなかった本庄さんを見て、監督の「カット」の声も待たずに声をあげて駆け寄った。

ヘルメットもプロテクターもつけてはいるけど、打ち所が悪ければ父のように最悪の事態だって起こり得る。

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