私だけのヒーロー
だけど本庄さんは私の呼びかけに顔を上げ、痛みに顔を顰めながらも「バカ。カットもかかってないのに声出すなよ」と笑いながら私を叱った。
その笑顔にホッとして涙が止まらなくなってしまった私を、彼は周囲の目も気にせずに抱きしめてくれた。
冷静になると現場でとんでもないことをしてしまったと赤くなったり青くなったりしたけど、その時はそれどころじゃなかったのだ。
その後、大丈夫だと言い張る本庄さんを監督に断りを入れて病院へ連れていき、強制的に頭部を中心に検査してもらい、大事を取って2日間入院させた。
社長である母は『気持ちはわかるけど』と苦笑し、父とのことを話してくれた。
「父は後悔なんてひとつもないだろうと、母は言っていました。それは私も手紙を読んだからわかってた…」
それよりも、私が気になったのは母の気持ち。
私は本庄さんの腕の中におさまったまま、顔を伏せて話し続けた。
「父と結婚して…後悔したことはないのかって聞いてみたんです。父を好きにならなければ、あんなに悲しい思いはしなくて済んだんじゃないかって……」
傷つきたくない。悲しい思いをしたくない。大切な人であればあるほど、その悲しみは深い。
自分勝手な感情だとわかってはいるけど、それが私の本音だった。