私だけのヒーロー
「母は、一度もないと笑っていました」
とりとめのないような話を、本庄さんは口をはさまずにじっと聞いてくれる。
『そりゃ亡くなった時は悲しかったし寂しかったわ。さくらを心配させるくらい落ち込んでいたと思う。でも、私には観月龍二が命懸けで残したたくさんの作品がある。龍二さんとの楽しくて幸せな思い出も数え切れないくらいある。それに、なによりあなたがいる。龍二さんと私の一番の宝物よ。後悔なんてするはずないじゃない』
そう話す母の目には、一切涙はなかった。
「…強いひとだな」
「はい。…私も、そうなりたい」
「さくら…」
すぐに母のように強くなるのは無理かもしれない。
危険なスタントの仕事が舞い込むたび、不安になることもあるかもしれない。
それでも、起きてもいない不幸を怖がって立ち止まるより、本庄さんを信じて、目の前にある幸せを大事にしたい。
本庄さんを好きになったことを後悔しないよう、毎日を楽しく幸せに生きていきたい。
それはスタントの仕事だけじゃなくて、きっと誰もが同じように感じていること。