私だけのヒーロー
「そういや、阿久津から連絡があった。また2人で飲みに来いってさ」
「わぁ、近々行きましょう。私もまた阿久津さんとお話したいです」
あのバーに行くと、いつも阿久津さんが学生時代の本庄さんの話をしてくれる。それがいつも楽しみだった。
「お前、ああいうのがタイプか」
「何言ってるんですか」
わかってるくせに、と目を細めて睨む。
「初めて店に行った時、あいつに見惚れてたろ」
首を傾げて考える。思い返してもそんな記憶はない。
確かに王子様みたいに格好良い人だと思った。だけど。
「……私は王子様よりもヒーローが好きです」
「今は殺し屋で、次はまた悪役だけどな」
「『秘密警備隊フラッシュライター』映画化ですもんね。ふふっ、またスティール伯爵に会えます」
悪役の〈中の人〉が、本当はヒーローだって知ってるのは私だけ。
その事実に、胸がぎゅっと疼いてむず痒い。
人気者の正体が私の恋人だなんて、嬉しいような恐れ多いような不思議な気分。