好きだけど、好きなのに、好きだから
部活が終わる。

部活中の先輩は、素っ気ない態度を気にしている様子は全くなくいつも通りだった。

俺は忘れ物を取りに戻ったあの日、眠る先輩にそっとジャージを掛けた。

麻衣先輩が言うように、優里亜先輩が風邪を引かないか心配だったから。

俺にしては、らしくねぇ。

そう自分でも思ってる。

「お疲れっす」

洗濯物を干す優里亜先輩に、声を掛けた。

「お疲れ様」

いつも通りの笑顔が返ってくる。

「どうした?」

「なんも……ないっす」

「そっか」

沈黙……

その沈黙に、先輩の作業の手が止まる。

先輩は、真っ直ぐな視線を俺に向けている。

その視線が、俺の言葉を待っているようにも見えた。

「先輩、風邪引かなくて良かった」

「ふふっ、佐伯君のお陰だね」

先輩が嬉しそうに笑っている。

俺の気持ちが動く。

先輩の何気ない言葉や仕草、表情に。

今は嬉しそうな先輩を見て、俺も嬉しい気持ちなっている。

それは、今までにはない初めてのものだった。

俺は、その初めての感覚が何なのか分からないでいた。

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