好きだけど、好きなのに、好きだから
「先輩行きましょ!」

「あーっ!」

麻衣ちゃんが、体育館に私を引っ張って行く。

体育館のドアを開けると、そこには佐伯君と大ちゃんがいた。

「姉御、お疲れっす」

「お疲れ様」

「よーし、麻衣帰るぞ」

大ちゃんが、私に目くばせした。

「佐伯、姉御のこと待ってたっすよ」

横を通るとき、大ちゃんが私にこそっと言った。

二人が帰っていった。

静かになった体育館。

「先輩……昨日は帰ればって言ってごめん」

意外にも、先に話し始めたのは佐伯君だった。

「ううん。私こそ佐伯君の練習の邪魔しちゃってごめん」

「あれは、先輩じゃなくて誠さんが……」

そして、佐伯君はいつも通りシュート練習を始めた。

私は、佐伯君に練習に付き合う理由を答えることが出来なかった。

でも今はっきり言えること。

私は、これからも佐伯君のシュート練習に付き合いたい。

今日も、真っ直ぐにバスケットに向き合う佐伯君を見てそう思った。

理由にはなっていないけど、これが今の私の答えだ。
< 79 / 97 >

この作品をシェア

pagetop