彼女は、2.5次元に恋をする。
第8話 瞬間、妙案が頭に浮かんだ
変遷した画面には『寺子屋名探偵 シーズン1』と表示されている。
シーズンがいくつあるのか見てみると――なんと30シーズンもあった。
(今年で30年ってことだよな……)
地上波で放送され続けているのは知っていたが、ここまでとは。いつだったか母さんが、『私が子供の頃からやってる』と言っていたことを思い出した。
どのシーズンを観れば――そういえば、剣蔵が登場したのは去年だと小石が言っていた。
(じゃあ、シーズン29だよな……?)
シーズン29のエピソードを見ると、すぐに『エピソード1 功刀剣蔵登場の巻』とあった。分かり易くて助かる。
早速クリックし、視聴を開始した。
自分が観ていた頃とは、オープニングもエンディングもすっかり変わっていた。俺は二十数分間の視聴を終え、停止ボタンをクリックした。
結果、剣蔵は頭のキレる、ツッコミの鋭いキャラクターだということが分かった。太巻先生の推理のヒントとなるような発言をし、事件の解決に一役買っていたのが印象的だった。
そして昨日、小石にセットされた俺の前髪は、やはり剣蔵スタイルだったらしい。彼の後ろ髪は短めのポニーテールのように結われていたが、前髪は昨日の俺そのものだった。
あと、少し気になったのは剣蔵の目だ。『俺、こんなに目付き鋭い?』と思ったが、まぁ……デキるキャラクターみたいだし、似ていると言われて悪い気はしない。
――『蓮君を初めて見た時『剣君がいる!』って。鋭いところもそっくりだね!』
ふと、また小石の言葉を思い出す。
――『椿高でこんなに話せた人いなかったから、嬉しい!』
そう言った時の彼女は、曇りのない笑顔だった。
「!!」
瞬間、妙案が頭に浮かんだ。
(もし、学校で寺子屋の話ができる相手がいたら――小石は、かなり嬉しいんじゃないか?)
思わず、小石が俺と楽しそうに話している姿を想像し、心が躍った。俺としても、彼女と親睦を深めたい。しかし、この想像を実現させるには、今の俺では到底『勉強不足』だ。
(よし、もっと寺子屋を観よう!
……そうだ! 忘れないように感想もメモしていこう!)
すぐさまノートPCをベッドから机に戻し、椅子に座る。そしてシャープペンに消しゴム、未使用のノートを用意すると、背筋を伸ばしながらエピソード2をクリックした。
************
「ただいまー」
玄関から聞こえたその声に、いきなり現実世界に戻された。
壁掛けの時計を見ると――6時半過ぎ。部屋の窓からは、オレンジ色の西日が差し込んでいる。
(うぇっ? もうこんな時間か!)
現在、エピソード24の途中である。今に至るまで、昼食やトイレ休憩以外、ずっと寺子屋の視聴を続けていた。
一旦視聴を中断し、椅子に座ったまま背伸びをする。
すると突然、自室のドアがガチャリと開けられた。
傍若無人に入ってきたのは……俺をアニメの世界から引き戻した声の主だった。
「暑かったー。ちょっと涼ませて」
「なんだよ、リビング行けよ。てか、ノックぐらいしろ」
「あ、ごめん、そういう動画観てた?」
――本当に可愛げのない妹だ。
「違う、健全なアニメだ!」
「もしかして……一日中、エアコンの効いた部屋でアニメ見てたの?」
憐れんだ目で訊くこいつは、さぞ充実した一日を過ごしたのだろう。
「……なんか悪いか?」
「三連休、どっか行ったりしないの?」
「特にしないな」
はぁ、と溜息をついた妹が、俺のベッドに座る。
「蓮も高校生になったんだから、彼女……とまでは言わないけど、友達と海とかお祭り行くとか、部活で汗を流すとか、何か青春っぽい予定は無いわけ?」
「お前……なんか母さんっぽい――」と俺が言いかけた時、
「蓮玲菜ー、夕飯にしよー?」絶妙なタイミングで母の声がした。
「今行く」
「今行くー」
不覚にも、俺と妹の声がきれいに重なった。
夕飯時。俺は今日観た寺子屋の、印象的だったシーンを思い返しながら黙食していた。
その最中、母と妹の間で『蓮』『友達』『青春』というワードが飛び交っていたような気がしたが、気のせいということにしておこう。
俺の中で、衝撃や感動、笑えたあのシーンやこのシーン――小石は去年、それぞれどう思って観ていたのだろう。
(あいつに話を振ったら、きっと目を輝かせて語りだすだろうな……)
口元がゆるむ。
早く続きを見なければ。今日のペースなら、明日中にはシーズン30に入れるだろう。
シーズン30は今年4月からの放送分だから、観終わるのにそんなに時間はかかるまい。その後はシーズン1から観よう。
思いついたこの予定により、三連休はあっという間に終了することとなる。
なお、母と妹からはそれぞれ、より残念そうな、より憐れんだ目で見られる羽目となった。
シーズンがいくつあるのか見てみると――なんと30シーズンもあった。
(今年で30年ってことだよな……)
地上波で放送され続けているのは知っていたが、ここまでとは。いつだったか母さんが、『私が子供の頃からやってる』と言っていたことを思い出した。
どのシーズンを観れば――そういえば、剣蔵が登場したのは去年だと小石が言っていた。
(じゃあ、シーズン29だよな……?)
シーズン29のエピソードを見ると、すぐに『エピソード1 功刀剣蔵登場の巻』とあった。分かり易くて助かる。
早速クリックし、視聴を開始した。
自分が観ていた頃とは、オープニングもエンディングもすっかり変わっていた。俺は二十数分間の視聴を終え、停止ボタンをクリックした。
結果、剣蔵は頭のキレる、ツッコミの鋭いキャラクターだということが分かった。太巻先生の推理のヒントとなるような発言をし、事件の解決に一役買っていたのが印象的だった。
そして昨日、小石にセットされた俺の前髪は、やはり剣蔵スタイルだったらしい。彼の後ろ髪は短めのポニーテールのように結われていたが、前髪は昨日の俺そのものだった。
あと、少し気になったのは剣蔵の目だ。『俺、こんなに目付き鋭い?』と思ったが、まぁ……デキるキャラクターみたいだし、似ていると言われて悪い気はしない。
――『蓮君を初めて見た時『剣君がいる!』って。鋭いところもそっくりだね!』
ふと、また小石の言葉を思い出す。
――『椿高でこんなに話せた人いなかったから、嬉しい!』
そう言った時の彼女は、曇りのない笑顔だった。
「!!」
瞬間、妙案が頭に浮かんだ。
(もし、学校で寺子屋の話ができる相手がいたら――小石は、かなり嬉しいんじゃないか?)
思わず、小石が俺と楽しそうに話している姿を想像し、心が躍った。俺としても、彼女と親睦を深めたい。しかし、この想像を実現させるには、今の俺では到底『勉強不足』だ。
(よし、もっと寺子屋を観よう!
……そうだ! 忘れないように感想もメモしていこう!)
すぐさまノートPCをベッドから机に戻し、椅子に座る。そしてシャープペンに消しゴム、未使用のノートを用意すると、背筋を伸ばしながらエピソード2をクリックした。
************
「ただいまー」
玄関から聞こえたその声に、いきなり現実世界に戻された。
壁掛けの時計を見ると――6時半過ぎ。部屋の窓からは、オレンジ色の西日が差し込んでいる。
(うぇっ? もうこんな時間か!)
現在、エピソード24の途中である。今に至るまで、昼食やトイレ休憩以外、ずっと寺子屋の視聴を続けていた。
一旦視聴を中断し、椅子に座ったまま背伸びをする。
すると突然、自室のドアがガチャリと開けられた。
傍若無人に入ってきたのは……俺をアニメの世界から引き戻した声の主だった。
「暑かったー。ちょっと涼ませて」
「なんだよ、リビング行けよ。てか、ノックぐらいしろ」
「あ、ごめん、そういう動画観てた?」
――本当に可愛げのない妹だ。
「違う、健全なアニメだ!」
「もしかして……一日中、エアコンの効いた部屋でアニメ見てたの?」
憐れんだ目で訊くこいつは、さぞ充実した一日を過ごしたのだろう。
「……なんか悪いか?」
「三連休、どっか行ったりしないの?」
「特にしないな」
はぁ、と溜息をついた妹が、俺のベッドに座る。
「蓮も高校生になったんだから、彼女……とまでは言わないけど、友達と海とかお祭り行くとか、部活で汗を流すとか、何か青春っぽい予定は無いわけ?」
「お前……なんか母さんっぽい――」と俺が言いかけた時、
「蓮玲菜ー、夕飯にしよー?」絶妙なタイミングで母の声がした。
「今行く」
「今行くー」
不覚にも、俺と妹の声がきれいに重なった。
夕飯時。俺は今日観た寺子屋の、印象的だったシーンを思い返しながら黙食していた。
その最中、母と妹の間で『蓮』『友達』『青春』というワードが飛び交っていたような気がしたが、気のせいということにしておこう。
俺の中で、衝撃や感動、笑えたあのシーンやこのシーン――小石は去年、それぞれどう思って観ていたのだろう。
(あいつに話を振ったら、きっと目を輝かせて語りだすだろうな……)
口元がゆるむ。
早く続きを見なければ。今日のペースなら、明日中にはシーズン30に入れるだろう。
シーズン30は今年4月からの放送分だから、観終わるのにそんなに時間はかかるまい。その後はシーズン1から観よう。
思いついたこの予定により、三連休はあっという間に終了することとなる。
なお、母と妹からはそれぞれ、より残念そうな、より憐れんだ目で見られる羽目となった。