八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 前の席でずっと伏せていた人が、振り向いて顔を上げた。椿くんだったんだ!

 少し低めの声は、機嫌が悪そうに聞こえる。騒いでいた男子たちは表情を硬くして、ごめんと散っていった。

「……碧」

「は、はい」

「困ったことがあったら、俺に言って」

「……あ、ありがとう」

 それだけ言うと、椿くんは教室を出て行った。

 もしかして、助けてくれたのかな。
 さっそうと歩く後ろ姿はスラッとしていて、芸能人並みのオーラを放っている。

 どうやら、椿くんはクラスの中でも近寄りがたい存在と思われているらしい。

 背が高いから、話す時に見下ろされている感じがする。いつも無表情で、何を考えているか分からない。

 でも、そこがいいと、密かに女子から人気があるとか。

 どれも納得出来る気がするけど、どうして一匹狼でいるんだろう。

 さっきも助けてくれたし、ほんとは優しい人だと思う。
< 10 / 160 >

この作品をシェア

pagetop