八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 電気をつけないと、何も見えない。

 ヒタヒタと足音が近づいてきた。椿くんだろうとわかっていても、半分は怖い。あの映画を見たからだ。

 パッと明るくなって、椿くんが姿を見せる。

「碧、どうした?」

「なんでもない」

 引きつった顔に気づかれないよう、反対側を向く。

「一人で寝られる?」

「平気!」

 思ったより大きな声だったからだろう。一瞬、椿くんが驚いた目をした。

「そう。じゃあ、おやすみ」

 背を向けられて、吸う息が重くなる。

 ガシャーン。下から大きな音が聞こえて、ビクッと体が飛び跳ねた。
 なに、今の? まさか、泥棒じゃないよね?

「見てくるから、碧は部屋に戻ってて」

 そう言われたのに、気づいたら、椿くんの袖を掴んでいた。

「い、一緒に、行く」

 消えてしまうほど小さい声。
 こんなところで、一人で待っていられないよ。

 椿くんの背に隠れながら、音のした方へ向かった。

 なにか武器を持った方がいいかな。もしも、変な人が侵入していて、事件にでもなったら……!

 ガサガサと奇妙な音がする。誰かいるのは、間違いない。
 目に入ったフローリングワイパーを手にとって、ごくりと息をのんだ。

 パチッと電気をつけた椿くんの後ろで、ギャッとカエルを踏んだような声が出た。

 なんか……いる。

「やっぱり、おまえか」
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