八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
「椿くーん!」

 下校の時間になって、気づいたらすでに椿くんの姿がなかった。

 廊下や階段を探したけど、見つからない。
 リュックもないし、もう帰っちゃったのかな。

 チョコレートをあげて、仲直りしようと思ったんだけどな。

 校庭をとぼとぼ歩いていると、「あーおい!」と背中にムチが打たれた。

「なんだよ、そのくっらい顔は。さえねー男が、余計さえないぞ」

 犯人は藍くん。力加減を知らないのか、男子ならこれくらい平気なのか。けっこう痛い。

「……人の気も知らないで」

 持っていた金の玉を落としそうになって、反対の手でキャッチした。

「おっ、それチョコ? なんか腹減ってきたな」

「……藍くんにあげる」

 校門を出たところで、手のひらにぽとんと落とす。

 ーーくれぐれも、片想いの相手以外には食べさせてはいけませんよ〜。

 うるさい。
 心の中の矢野さんに、文句を言う。

 どうせ避けられてるんだから、いいの。
 この調子だと、椿くんに渡すどころか、話すらしてもらえないだろうから。

 包み紙をとったチョコらしき物体を、藍くんが一口でパクッと食べた。
 もぐもぐとして、ごくん。まあまあの大きさがあったけど、男らしい食べっぷり。

「おいしい?」

 何味だろう。マカダミアナッツ、それとも苺ソースかな。

 のんきな想像をしていたら、いきなり肩をガシッとつかまれた。

「……アオイ」

「な、なに? 急にどうした?」

 じっと見つめてくる藍くん。少し様子が変だ。目がトロンとしていて、心なしか頬も赤い。

「好きだ」
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