八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 数秒ほど、思考が止まった。

「めずらしいね。藍くんが、そんな冗談言うなんて」

 アハハと笑って、また歩き出す。
 少し速度を上げるけど、藍くんが後ろから抱きついてきた。

「オレ、本気だよ」

 耳元の声が、いつもと違って聴こえてドキッとする。

 藍くんは、こんなことをする子じゃない。からかっているだけだ。
 でも、目は真剣で笑っていない。

「うそ……でしょ?」

「アオイ、かわいい。オレとデートしよう」

 頬をスリスリされて、悲鳴をあげそうになったとき。ベリベリとマジックテープをはがすみたいに、藍くんの体が後ろへと離れた。

「……藍、なにしてる」

 どこから現れたのか、目から上が真っ暗な椿くんが立っていた。

 バスに乗って家へ帰る最中、藍くんがずっと腕に絡みついている。
 後ろから、椿くんの強い視線がグサグサと飛んできていて、とてもおかしな状況だ。

「アオイ〜、今日は一緒に寝ような」

 子猫みたいな瞳をキュルンとさせて、見つめてくる。

 あのチョコレートが原因に違いない。
 魔法のシャボンとか、食べたら恋に落ちると言っていたけど、冗談じゃなかったの?

「ら、藍くん……、いったん、落ち着こうか。まわりの人に、変な誤解されるし」

 それに、背後から殺気がひしひしと伝わってきている。

 駅へ着きバスを降りても、藍くんは繋いだ手を離そうとしない。
 見た目は男子同士だから、すれ違う人たちの熱い視線が恥ずかしい。

「……藍、いいかげんにしろ」

 見かねた椿くんが注意するけど、聞く耳を持っていないらしい。

 それどころか、指のすき間に指を入れ込んで、恋人つなぎになってしまった。これ以上されたら、女子に戻っちゃうよ。

「なんだよ、椿。うらやましいなら、反対側空いてるだろ」
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