八城兄弟は僕(=わたし)を愛でたい!
 なにを思ったのか、大人しくなった椿くんが、わたしの手を握ってきた。
 な、なんか違う気がするけど……この状況は一体……。

「藍だけ、ズルい」

「と、とりあえず、早く行こう!」

 二人にはさまれて、なんとも言えない気持ちになる。まるで、おもりをされている子どもみたい。

 なるべく人に見られないように、小走りで駅へ入ると、電車に乗った。

 今日は、わたしの家へ行く日だ。
 一ヶ月以上、誰も住んでいない家の換気をするため。もちろん、防犯対策のためでもある。

 一時間ほど揺られて、久しぶりの家へ着いた。なつかしくて、涙があふれそうになる。

「わけも分からずついて来たけど、ここどこ?」

 ボーッとしながら、藍くんがあたりを見渡している。
 となりの椿くんは、気まずそうにしているけど、なんとなく気づいている様子。

「えっと、僕の家だよ」

 持っていた鍵で家へ入ると、しめった空気が充満していた。
 全部の窓を開けて、風を通す。ホコリっぽい部屋に、明るい光が入ってきた。

「気持ちいい〜」

 人がいないと、家もさみしそうに見えるんだ。
 飾ってある人形や本をさわって、「ただいま」とつぶやく。

 棚のホコリ取りをして、掃除機をかけた。
 無言だったけど、椿くんも手伝ってくれたの。藍くんは、くっついて邪魔ばかりするから、ソファーで待たせている。

 掃除が終わったら、藍くんを戻す方法を考えないと。

「なあ、アオイ。これって誰?」
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